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キックオフイベント
『デジタルデータをデジタルデータよりも長く保存するワークショップ』
落合陽一はメディアアーティストとして活動する中で保存期間に応じて使用するメディアを使い分けている.その中で揮発性の高いデジタルメディアだけでなく,支持体の寿命が長く褪せることのないプラチナプリントを多用している.このワークショップではそういったオルタナティブプロセスによる印刷を体感し,支持体としての和紙や木の可能性を探求する.具体的には参加者の持つデジタル写真データを飛騨の山中和紙や木に焼き付けるワークショップを行う.
『ステーショナリーノマド時代のテクノ民藝:ホモサピエンスからホモコンヴィヴィウムへ』
「「ステイショナリーノマド」とは、美術家のナム・ジュン・パイクが、提唱した地球上のさまざまな場所で活動することでエネルギー消費を抑え、カーボンニュートラルな社会を目指すという理念だ。20世紀における工業的発展は、自然環境や貧困層といったもの言えぬ存在の犠牲の上に成り立ってきたが、現代を生きる人類には、SDG’s に代表される「持続可能性」が求められている。そのような目線に立って過去を振り返ると、東洋には「知足安分(足らざるに足るを知る)」という思想がある。思想家イヴァン・イリイチが、掲げた「コンヴィヴィアリティ」邦訳「自立共生」という理念を支えたものも、持続可能、あるいは知足安分的な振る舞いに他ならない。イリイチは機械産業が人間に与える負の影響に早くから着目した思想家であったが、同様に、日本における産業革命の黎明期に、同様の主張を述べていた人物がいる。思想家「柳宗悦」である。目には見えない存在への情愛を含めた当時における持続可能性とは、古来から続いてきた営みそのものだった。柳はそれら名も無き美しきものに「民藝」という名を与え、民藝という「新しいメディア」を通して、世間にその必要性を問うた。未来を考えるためには現代を知る必要があり、現代を知るためには過去に学ぶ必要がある。本講演は、メディアアーティスト落合陽一が見た、過去と未来を繋ぐ結節点である。」
ワークショップで制作した『オルタナティブプロセスの作品(プラチナプリント・サイアノタイプなど)』の展示
ご来場ありがとうございます.落合陽一です.日下部民芸館での展示が無事に開催できまして大変嬉しく思っています.ここ3年ほどメディアアートと霊性・禅・仏教・民藝などの関連性を中心にリサーチと作品作りを続けています.「物化(Transformation of Material Things)」をテーマに作品作りをする自分にとっては,「無心の美」「自然の美」というのはデジタルが自然化し,デジタルテクノロジーが異物ではなく自然風景の一部と捉えられていく過程で我々が今後獲得していくものだと理解しています.
自分は近頃,サステーナブルなメディアアートとは何かということをよく考えています.一つはメディアアートそれ自体の保存について,もう一つはその制作法がいかにして環境に寄り添っていくかということです.
落合陽一はメディアアーティストとして活動する中で保存期間に応じて使用するメディアを使い分けます.その中で揮発性の高いデジタルメディアだけでなく,支持体の寿命が長く褪せることのないプラチナプリントを多用します.今回の展示では手漉きの山中和紙を支持体として使用したプラチナプリントをメディアとして用い,日下部民芸館の根付を撮影したものを展示しています.実物を見るときとは違う一面を感じていただければ幸いです.