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Yoichi Ochiai

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落合陽一×日本フィル プロジェクトVOL.6 《遍在する音楽会》

落合陽一×日本フィル プロジェクトVOL.6

遍在する音楽会のキービジュアル

Artist Statement

音と光の共感覚を探ることは時間と空間の中に縁起を探していくことに似ている.日本フィルハーモニー交響楽団との協働を続けて数年.《耳で聴かない音楽会》®を始めとして,耳だけでない音楽を探し続けてきた.マルセルデュシャンが網膜のための絵画を抜け出て,思索探求と哲学の自由を芸術にもたらしたように,我々も耳だけの音楽から離れたとき,オーケストラの構成要素となるものが何かという問いを持ち続ける試みを続けてきた.この古典的とも言える問いをオーケストラと共に実直に探求する活動を続けてきた.当時代性を持ってこの問題にどういう答えを出すことができるのか,時代と社会と共に歩んできた.初回から4分33秒というジョンケージの作品を扱ってきたものの,メインで彼の作品を扱うのは初めての試みとなる.いよいよ時は満ちたというべきか,それとも時間芸術を受容する我々そのものが変容しつつあるというべきだろうか.今回の演出の過程ではいつものような時間と空間ではなく,時間なき音楽と向かい合うことになった.

ナムジュンパイクが1980年に述べた「定在する遊牧民」のコンセプトやポストコロナの祝祭・身体性を込めて昨年の醸化する音楽会を開催した.定在する遊牧民とはデジタル技術によって人の知的活動は遍在し,あたかも遊牧民のように世界中に出現しながら,物質的な身体は定在しているという状態を指す.デジタル技術による定在遊牧性と現代社会についての思考を続けているうちにこの変化は,狩猟採集社会・農耕社会・定在遊牧社会と続くような千年レベルの大きな変化なのではないかと考えるようになった.ゆえに,大きなパラダイムの変遷として農耕社会以前について,身体性について,規範や倫理について,そして森林や炭素循環について思考を続けていた.

森林に多く存在するきのこはネットワークを張り巡らせる生き物である.ジョンケージは4分33秒:無音の音楽のことを「きのこの音楽」と呼んだが,耳もなく目もないきのこにとっての音楽とはなんだろうか.その補助線として考えられるのは仏教的世界感覚であると思う.ケージの作風は鈴木大拙の禅の講義を受ける以前と以後で大きく変化したことが知られている.空海風にいえば山も水も木々も空も鳥も我々も全てのものは変化し,そして繋がっている.自分が今の時代に補足をするならばそれは波動も物質もデジタルも計算機も含めた大きな流れを体得することかもしれない.熟考を続けるうちに,それは物質的,触覚的なグルーヴ,そして森林生態系にとっての音楽そのものではないだろうかと考える機会が増えた.この森林生態系としてのグルーヴを人に置き換えてみたらどうなるだろう.社会で生まれるさまざまな音,ネットワーク,社会的生物としてのヒト,そして音でも光でもない味覚や触覚や嗅覚的なグルーヴ.それは奇しくもコロナ禍で失ったコンヴィヴィアルな体験の構成要素そのものではないだろうか.

森と共にコンヴィヴィアルな要素と共に生き,非言語的脱論理的な体感知を希求する上で定在遊牧的な縄文社会のことをリサーチするに至った.縄文人は近年の遺伝学的調査によれば,東アジアの人々から派生し,琉球人・アイヌ人・縄文人と三つに分かれた遺伝的特性を持つ人々であったとされている.サステナブルな社会を思考する上で1万年以上にわたる持続可能社会,そして戦乱なき比較的平和な安寧を営んだ上記の人々の文化や生活を見逃すわけにはいかない.土器や土偶をめぐる調査やアイヌ音楽を伝承する人々との協働など多くの事例を通じて,大いなる自然から何かを紡ぎ,育て,それを還し,また受け継ぐことの重要性を感じている.集団における未来の情報を価値とし,時間や金銭という概念を導入すると失われてしまう持続可能性があるのだろう.例えるなら茶道の茶禅一味・即今のように,過去現在未来という時間の流れの中に身を置くというよりは,今それそのものへ着目し,時間という概念を超えた空間芸術としての音楽への回帰と理解が,現在向かいつつあるポストインターネットの定在遊牧社会と共鳴しうると考えた.

我々は今空間的に遍在し,資本や時の流れとはまた違った価値観を揺籃しつつもあり,物質的身体的なものへの飢えから回復しつつある中で,平和を希求し,分断を乗り越えるための何かを,文化や歴史の営みの中から紡ぎだそうとしている.ケージの時代に描けなかったキノコの音楽・そしてキノコの楽器とは何か.そんなことを思いながらこの空間に生きる遍在する身体の共感に想いをはせてほしい.

プログラム / Program

ジョン・ケージ:ミュージサーカス(1967)[コンサートホール版]
アイヴズ:答えのない質問
藤倉大:新作(仮題「メディアアートとオーケストラのための協奏曲」)※委嘱世界初演
ファリャ:《恋は魔術師》より「火祭りの踊り」
ストラヴィンスキー:バレエ組曲《火の鳥》(1919年版)

Date
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Venue
Suntory Hall, Tokyo
Time
19:00開演
Price
会場チケット:S席 ¥8,000 / A席 ¥6,500 / Ys席(25才以下)/ ダイバーシティ席(障害者手帳保持者)¥1,500 / パイオニア・ボディソニック(体感音響システム)席:お問い合わせ
オンライン配信チケット(見逃し配信なし、国内):各日¥5,000
Artist
演出・監修:落合陽一
指揮:海老原光
映像の奏者:WOW 他
Organizer
公益財団法人日本フィルハーモニー交響楽団
Others
助成:令和4年度日本博イノベーション型プロジェクト 補助対象事業
(独立行政法人日本芸術文化振興会/文化庁)
協力:Emohaus inc. / WOW / TBWA\HAKUHODO / パイオニア株式会社 / 立命館大学 白川静記念東洋文字文化研究所 / 株式会社ハルカインターナショナル 他
協賛:株式会社プリズム
Web Site
https://japanphil.or.jp/concert/25058