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第5回(2013年)日中韓文化大臣会合において、2014年以降毎年、会合主催国が、日中韓の優れ
た伝統文化と現代の芸術的発展の成果を紹介することを目的に、芸術団等の出演による3か国の
共同事業として日中韓芸術祭を実施することが合意されました。
本年の日中韓芸術祭では、2021年4~7月に、北九州市で開催された「北九州未来創造芸術祭
ART for SDGs」(ディレクター 南條史生)からコンセプトを引き継ぎ、メディアアーティストの落合
陽一氏を総合演出により、日中韓三か国が共同してバーチャルファッションショーを核とした映像作
品を制作することになっています。
「デジタル時代に花開く,時空間を超えたパッチワーク」をテーマに、日本・中国・韓国の装いの土着
性や、その文化の根底に流れるサスティナビリティを共通のコンセプトとし、地理的な距離を越えて
一つの場に集結している映像の制作がスタートしました。
今回は、実際の作品公開に先駆けて、ホログラム技術を活用した日本側映像の投影の収録、
北九州市内の高校生(東筑紫学園高等学校服飾専攻)による作品展示を実施します。
ご挨拶
この度総合演出を務めさせていただきます、落合陽一です。
多くの人々が携わる芸術祭で総合演出の仕事をさせていただけること大変光栄です。
今回の芸術祭の中心都市である北九州では本年度春に芸術祭の中で個展をさせていただき、北九州の
文化やアジアの文化のハブとしての機能、日本の産業革命の礎となった工業性と自然が融和する街と
いう感覚を覚えています。
自分はアーティストとして、境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開し
てきました。それは質量ある世界と質量のないデータの世界の調停により風景を調和させるインスタ
レーションの制作やデジタル時代の新しい民藝的創作行為の継続によるライフスタイルの探求です。
質量ある自然と質量ない自然の調和によって作られる未だ名も無い新しい自然環境「デジタルネイ
チャー」における技術や文化を探求し続ける研究者でもある自分は、持続可能な社会に向けて作家活
動と研究活動の両輪で探索を続けています。
日中韓の文化の根底に流れているものを考えたとき、真っ先に浮かんだのは物化・華厳・民藝・侘寂
などの東洋的美的感覚と世界観の中に構築される持続可能なデジタルの自然です。COVID-19の災禍
で加速し、リモートコラボレーションが当たり前になった時代、1980年のナムジュンパイクの言葉を
借りれば「定在する遊牧民(stationary nomad)」とも言える我々は、地球上のあらゆるところから
デジタルの自然に接続され,共生し饗宴することができるようになりました。
我々がこの時代に喪った質量への憧憬とは何か、持続可能性を批評するために立ち戻る場所としての
襤褸の質感、持続可能性から遠い場所にあった現代のファッションと日本旧来のファッションとの
親和による新しいビジョン、身体性を必ずしも伴わない映像としてのショーの持つ幽玄な身体性、
そういったキーワードを拾い集め、メディア装置で重層的な表現を構築しようと務めてきました。
それはデジタル時代に花開く、時空間を超えたパッチワークです。
ファッションブランド、メーカーの方々、襤褸のアーカイヴコレクション、にもお世話になりまし
た。スタッフを代表してここに感謝を述べたいと思います。デジタル時代のパッチワークがみせる
持続可能性や身体性・質量への憧憬からなる表現が、日中韓の根底にながれるアジア文化の霊性を
惹起し、それが文化的な友好を作り出すことを祈って。身体的に分断された時代に定在する遊牧民の
ような軽やかさで表現する喜びが伝わることを信じています。